私の父である先代の椎木医師が山口県周南市桶川町に椎木内科を開院したのは昭和44年のことです。当時この町にはまだ医院そのものが少なく、昼は診察、夜は大きな黒いカバンに道具をつめて往診にと、父が忙しく働いていた姿を今も憶えています。父はいわゆる赤ひげ先生タイプの面倒見のいい医師でしたが、いざ病気のことになると患者さんを怒ることもありました。もちろん、それは病気を治したいという熱い気持ちの表れであったのだと思います。気さくで人づき合いが好きな父を慕った患者さんが、採れたての魚や野菜をこっそりわが家の裏口にどっさり置いていってくれたりといったことも度々あったようですが、今から考えればのどかな時代でした。
小さかった頃の私は、忙しい父よりも患者さんたちにキャッチボールなどで遊んでもらうことのほうが多くありました。そのせいか幼少時から父や医師という仕事に反発心を持ちながら育ったのですが、やがて父の背中を見ながら仕事への熱意や医師という存在の大切さを次第に理解するようになり、いつの間にか自分も同じ道に進んでいきました。
どんな医師になろうかなと考えたとき、真っ先に思いついたのが心臓を中心とする循環器内科医です。心臓というのは人の命を支える一番大切なエンジン。人の命を守るという医者の最大の使命から考えても、循環器の医療を通じて患者さんの人生を手助けするというビジョンは熱血漢の私の心を熱くしてくれたのです。
父が引退して私が当院を引き継いでから「椎木内科循環器科」になりました。しかし変わらないのは“地元の健康を守る”という開院以来の信念です。当院がこの町の人や家族とおつき合いし、風土や気風を見て得てきた経験や情報は、地元のかかりつけ医として気配りのある医療サービスを行う上で大きな財産になっていると思います。
町のかかりつけ医の役目は、患者様の日常生活や人生といった広くて長い視点から健康を観察し、医療内容を平易な言葉でわかりやすく説明し、納得のいく診療を受けていただくことです。当院はそのような自らの役目を認識し、総合内科専門医と循環器専門医を分野とする地域密着型の親身な医療サービスの提供を通じて、この町の健康を見守って行きたいと思っています。