今回は楊貴館という長門市の油谷湾に面した温泉ホテルに一泊してきました。以前からの親子三世代の身近な旅行も終焉にかかっています。娘は4月から浪人生活で女子寮に入り1年間缶詰状態です。そして私の父、先代の院長ですが御年85歳に到達し腰も曲がり杖をつきながら後姿を見ればいつ転倒して入院もしかねない状態です。「家族そろっての旅行もこれが本当のラストかな?」と何回も思いながら小旅行を繰り返してきました。しかし本当に今回がラストかもしれません。
昔、私が子供の頃の父は忙しくて旅行などに連れて行ってもらったことが数回あったと記憶していますが、家族皆で移動ということは皆無でした。私の祖父母は百姓で、毎日毎日真面目に働いて「遊びに行くなんてお金がもったいない」という典型的な明治生まれでした。母は母でその日その日を生きるのが精一杯という全力な生き方でしたので、なかなか皆で旅行という雰囲気ではなかったのです。また今と違って若者がどんどん海外旅行に出て行く時代でもなく、「がんばればお金が入り家を買えて豊かな暮らしになる」という右肩上がりの高度経済成長時代の真只中でしたので、現在の「先が見えないとか将来が不安」という時代とは違うのも事実です。でも小学生当時の他の友達が家族旅行をしておじいちゃんの実家に行ったなどと夏休みの話を聞くと子供心にうらやましく思った自分もいたのも確かです。そのような過去の子供ながらの苦い経験からか自分が大人になって子供ができたら必ず一緒に動いて一緒に記憶を残そうとずっと思っていました。それが今日の小旅行につながっているのです。それが将来に子供たちの記憶にどう残ってどう思い出されるかは彼らが後世に判断すればいいのです。
今回は夕日が見える部屋ということで予約しました。沈みかける夕日に油谷湾が輝いてそしてその彼方には夕闇から暗闇へと黒くコントラストの数値が上がっていくような光景を望む予定でしたが望めませんでした。しかし8階からの油谷湾の絶景を望めました。また皆での夕食は楽しいひとときです。今までも月に1回程度は市内のレストランなどに皆で一緒に夕食に出かけていました。子供が中学生になるとクラブ活動などで子供の学校中心の生活に親が合わせなければいけなくなるので家族団欒も減ります。クラブ活動も中高の集団生活も大人へなるための一歩で必要不可欠なものですが、あまりにも最近の子供たちは時間に束縛されて忙しく感じられるのは私だけでしょうか?
翌朝の朝日の昇る澄んだ海を観ながら今回の特別な想いの詰まった楊貴館で一瞬ですがふと考え込んでしまいます。「この短いけれども充実した1日をそれぞれの愛する人々と共に一緒に過ごせてよかったなあ。そして明日からそれぞれのまた新しい1日が始まっていくのだ。そしていつしかこの温泉宿に再び泊ることができたなら、はるか昔に家族皆で移動した楽しいひとときを思い出しその時の景色とあいまって、また次の新しい家族への大切な思い出になることに違いない」ということを切に想いながら宿を後にしました。