今は1年で一番寒い時期の大寒の頃で、血圧も一番高くなる頃だと思いますので、今回は早朝高血圧のお話をさせていただきます。早朝高血圧とはその名のとおり朝起床時に高血圧を認めます。朝は一般的には血圧が低いと思われがちですが、実は全然違います。「1日1回血圧を測定するならば、朝一番の血圧を測定してください」と患者さんにいつも説明しています。
では、なぜ朝一番の血圧が高いのでしょうか?それはまず人間にはアクセルとブレーキに相当する2種類の神経が存在します。アクセルに相当する神経は交感神経と呼ばれて昼間に活躍します。よく日常会話でアドレナリンが出るといいますが、それは交感神経の仕業です。ウサインボルトが100m決勝で世界新記録を出して全力疾走したときは、交感神経は全開で、アドレナリンがガンガンに分泌されていたはずです。夜就寝時や安静時にはブレーキに相当する副交感神経が働き交感神経を抑えます。この二種類の神経がアクセルとブレーキの役割をしてうまくバランスをとっているのです。ですから早朝の副交感神経と交感神経の交代時期には、喩えれば三交代勤務で引き継ぎや申し送りがうまくいかなければ仕事が円滑に進まないように、血圧も朝起床時に上昇しやすくトラブルが起こりやすくなるわけです。
では、皆さんは車を運転されると思いますが、交通事故はどこで起こりやすいと思いますか?勿論、高速道路を時速200kmでぶっ飛ばせばかなり危険で一発免許取り消しになるでしょう。通常の高速道路で見渡すかぎり直線コースが続く場合、日本の高速道路ではあまり見かけることはないと思いますが、そこを時速100kmで走行する場合と交差点でスピードを落とす場合を想像してみてください。どちらの方がより危険が待ち受けているでしょうか?多分、交差点の方が多いはずです。それは信号があり、スピードを変化させるからだと思います。つまり血圧も変動するときに一番事故が増えるのです。だから朝一番の高血圧が事故を起こしやすい、即ち脳や心疾患の事故につながりやすいのです。
しかし健診では血圧測定は昼間に行います。「健診の血圧で正常だからあなたの血圧は大丈夫!」とは血圧の専門医は全然思っていません。まして健診で高血圧を指摘された場合、「早朝ではもっと血圧が高いのでは?」とか「人前で緊張する白衣高血圧では?」と血圧の専門医は考えているのです。また同時に自分の体は自分が一番よく知らなければなりません。ですから最近はどこの医療機関でも血圧手帳を患者さんにお渡しして、朝起床時と就寝時の血圧を記入していただくようにしています。そしてその結果を見せていただくと、医師もその患者さんの個々の血圧に対して的確なアドバイスができるのです。皆さんも面倒くさがらずにマイ血圧計を購入していただき、朝一番の血圧を測定してみてはいかがでしょうか。ちなみにマイ血圧計は腕に巻くタイプがベストです。手首に巻くタイプは簡単ですが、数値が高めに出る傾向があるようで、専門医はお勧めしません。