前回はインフルエンザと新型コロナの同時流行の可能性をお話をしましたが、今回は風邪外来の時間と空間の分離のお話です。夏から国も我々医師会側もこの冬の感染症の流行に備えていろいろと準備してきました。まず新型コロナは熱が出る前の無症状でも人に感染しますし感染しても全く自覚症状のない若者も多く存在して知らないうちにどんどん感染拡大していくのです。そのため冬場に風邪症状のある外来患者さんのうちどの人が新型コロナでどの人がインフルエンザでどの人が普通の風邪かを区別する術はありません。唯一可能なのはインフルエンザ簡易抗原キットや新型コロナ簡易抗原キットを実施すればその場で判定できます。しかしPCR検査と異なり本当は陽性であっても簡易キットでは見逃す確率が約15%あります。それなら全員にPCR検査をすればいいではないかと意見が出てきますが、冬のインフル流行時には1か月で数千万人もの人が罹患するわけで、全ての患者さんにPCRなど不可能なのです。ですから少しは感度が低くても一般診療所で簡易キット検査をしなければ追いつかないのです。それに加えて厄介なことに無症状の人でも新型コロナに感染していないとも言い切れないのです。
以上の理由から国は11月からの風邪症状を含めた診療対応に関しては時間と空間を分離しなさいと通達してきたのです。その通達は非常に理にかなっています。しかし実際には相当困難であることも事実です。具体的に言えば内科など風邪を診察しなければならない各診療所に対して風邪患者さんを診察する時間帯には通常の患者さんを診察しないようにして更に可能な限り院外に簡易診察室を整備して診察することが理想です。そのための補助金なども厚労省がバンバン拠出しています。我々医療側もそれが理想的な事は十分理解できますが、現実的に全ての医療機関で可能かと言えばNOです。地方の医院は土地も広く可能でしょうが、都会のビルクリニックでは困難と言わざるをえません。ですから結局は各診療所の裁量に委ねるしかないのです。当院は幸運にもスペースがありますので時間と空間を分離できましたが、次に重要な事はその事実を全ての国民に周知しなければなりません。行政は周知すると言っていますが、毎日のテレビやニュースで一向にその周知が聞こえてきません。こういう時こそメディアは毎日何回も「風邪をひいて体調不良は病院に直接行くのではなくまず電話を」という注意喚起情報を流さなければいけないのですがあまり放送されていません。結局それを知らずに来た患者さんは末端の現場でトラブルになることもあり再度出直しをしなければならないのです。理想的なしくみなのですが、「言うは易く行うは難し」といった印象をこの11月は私自身感じていました。しかし幸いにも当院に受診される患者さんはほとんどが私との信頼関係が構築されていると自負していますのであまりトラブルはありません。なかには反発する人もいますが、その時は私の性格上3倍返しで切り返してしまいます。私の性格が良いか悪いかは別にして可能な限り院内感染を予防するには心を鬼にしなければならないこともあるのです。