私は霊感が強くありませんし、一応科学者の端くれですので心霊現象など非科学的な事象は信用しないようにしています。脳科学からみると脳細胞の記憶などは電気現象でありそれが現代のIT技術からすればマイクロチップに何ギガバイトの容量をもち発火して神経細胞を刺激してありとあらゆる情報を伝達していきます。しかしこの記憶は質量などなく物質とは言えません。質量も温度もなく見るに見えない記憶と同じような代物である御霊も不可解なもので現在に至っても信じるには私にとり困難な事象です。前置きは長くなりましたが、そのような心霊現象でも今回だけは例外として私は認めてもいいのではないかと思い紹介させていただきます。
彼は小中高と同じで卒業後は東京に住み田舎には年老いたご両親がいます。その老夫婦は昔から私が診療しています。5年前の同窓会に彼が出席してくれて30年ぶりに会えて楽しいひと時でした。今回の同窓会にもご両親を通して出席を促しましたが、今回は仕事が忙しくて欠席とご両親を通じて伺っていました。そして同窓会が盛会に終了した翌週のことです。ご両親が顔面蒼白で来られて「息子が亡くなった」と一言。勿論言葉が出てきません。沈黙が続きお互いにその雰囲気にいたたまれなくなり何か話をしましたが、あまり記憶に残っていません。唯一覚えていることは肺癌に3年前になり末期だったとのこと。その日はそれで終わりましたが、後日今回の同窓会の反省会で同級生の死をメンバーに話したら、一人の友人がわけもわからぬことを言いだします。「同窓会で彼が包帯を巻いていてにこっと笑っていた」と言うのです。現実と空想、現在と過去、そして自分の記憶と彼の記憶がその場で交錯して何が真実で何が事実かわからなくなりました。すかさず別の友人が「彼は昔から霊感が強いよね」と言うのです。科学者の端くれとしてそれを事実として受け入れることはできません。それでも「もしそれが本当ならそれはそれでいいや」と思いながら反省会は終了します。そのモヤモヤ感が消えないまま「同い年の同級生の死」の重みの方がショックで「人生とは儚いもの」と思いながら1ヶ月が経過します。
先日、久しぶりに同級生のご両親が来られて診察の合間にゆっくりとその件をお話ししました。ご両親もその状況を即座に飲み込むことは不可能なことはわかっていますが、敢えて聞きました。同級生が亡くなる1週間前のお盆の同窓会の頃、彼はホスピスにいて頭に包帯を巻いていたそうです。多分亡くなる前ですから意識も少しずつ遠のいていたかもしれません。彼は家族に看取られて亡くなりましたが、無念だったと思います。もう一度故郷に帰って来たかったと思います。その思いをもしかしたら霊感の強い友人は見ることができたのだと今では思っています。知らぬとはいえ私は亡くなった彼のご両親に「なんで今回は帰省しないの?」と何回もしつこく聞いたことは今になっても余計にひっかかっています。今回は私の中では例外の事象ですが、ご遺骨が実家に里帰りしましたので、彼に直接会って「お前、同窓会に来てたんだってね。楽しかったよ」と合掌するつもりです。